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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)10141号 判決 1974年6月06日

原告 タネヤ産業株式会社

右代表者代表取締役 稲田穣

右訴訟代理人弁護士 秋山英夫

被告 西村正夫

右訴訟代理人弁護士 木村五郎

右訴訟復代理人弁護士 臼田和雄

主文

本件各手形判決を認可する。

異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、原告

本件各手形判決記載の主文同旨の判決および仮執行宣言。

二、被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決。

第二、当事者双方の主張

一、原告(請求原因)

(一)、原告は本件各手形判決末尾約束手形目録のとおり記載がある約束手形一二通を所持している。

(二)、被告は右手形を振出した。

(三)、よって、原告は被告に対し次の金員の支払を求める。

1、本件約束手形金元本。

2、右金員に対する訴状送達の翌日から支払ずみまで商法所定年六分の割合による遅延損害金。

二、被告(答弁・抗弁)

(一)、答弁

原告主張の請求原因事実は全部認める。

(二)、抗弁

1、本件各手形は被告が受取人である三好建設株式会社に対しホテルミカドの建築請負工事代金として支払ったものであるが、同工事には次の債務不履行があるので原因関係を欠き被告に手形金の支払義務はない。

(1)、建設されたホテルミカドの建物はややねじれながら、全体として西へ傾き、屋上も水平でなく、東が高く、西が低くなって傾斜しており、右状況は、何人にも一見して肉眼で判明する程度であった。

(2)、客室二一室のうち、一七室に雨もりがあり、従業員室は四室全部、その他随所に雨もりがあって、雨の日には使用に耐えず、ホテルとしての機能は大巾に減殺される状況である。

(3)、防火戸は、火事の際、自動的に閉まることとなっているが、何もなくても自然に閉まり終始キビスで止めていなければならないため、その機能を果せないものがある。又、防火戸を開いていれば、横の客室の戸を開くことができないところがある。また防火戸が完全に閉まらないところもあり、浴室の戸が閉まりにくかったり、窓サッシ戸が完全に閉まらないなどそれぞれその用をなさないものがある。

(4)、その他排水の機能のわるさ、ボイラーの配管にビニール管を使用していたなど全く常識では考えられないことなど細かい点を挙げれば限度がないのであるが、電気系統について言うと、ほとんどの火災報知機が不完全で鳴らない状況であり、消防署から警告がきていたほどである。又、コンセントにカバーがついていないという不備もあった。

2、原告は三好建設株式会社の下請として建設工事中電気工事をおこなっていたもので、右事情を知って本件各手形を害意取得した。

三、原告(抗弁に対する答弁)

被告主張の抗弁事実中、三好建設株式会社の工事につき、次のとおり建物が傾斜していること、雨もりがあること、防火戸等が自然に閉まることは認めるがその余の抗弁はすべて否認する。

なお、建物の瑕疵に関する原告の主張は次のとおりである。

1、建物の傾斜

建物が傾斜している事実は認める(建物の最上端から錘糸を下すと地上において二〇cmの隔りを生ずる)。これが工事人三好建設の責任であるかどうかは、目下別件訴訟で争われており、工事人としては地盤の異常な軟弱性に基因するもので、設計通り施工した工事人の責任ではないと主張している。

いずれにしてもこの傾斜は竣工後徐々に生じてきたものであって、原告が本件手形を受領した時点においては傾斜の問題は全然生じていなかったのである。

2、雨もり

本件建物の数箇所において雨もりしているのは事実であるが、これも建物竣工後始めての梅雨の時節に雨もりのすることが発覚したのであって、原告が本件手形を受領した時点においては、そのような不完全な箇所のあることは知る由もなかったのである。

3、防火戸の不備

防火戸等が自然に閉まるのは、いづれも建物の傾斜に基因するものである。防火戸が客室の入口を塞ぐというのは、設計上のミスであって、工事人の責任ではない。

4、電気工事関係

この関係の不備というのは全く事実無根である。火災報知器は竣工当時検査を受けて合格しているのであり、若し鳴らないとすればその後に生じた何らかの事由によるものである。またコンセントのカバーをつけない電気工事人などあり得よう筈がなく、若し事実においてカバーがないとすれば何らかの事情によるものと考えられる。

第三、証拠≪省略≫

理由

第一、請求原因

原告主張の請求原因事実は全部当事者間に争いがない。

第二、抗弁の検討

三好建設株式会社の施工したホテルミカドの建設工事に建物が西側に約二〇センチメートル傾斜し、かつ、数個所に雨漏りがあることには当事者間に争いがなく、この事実と、≪証拠省略≫によると、本件約束手形一二通は被告が三好建設株式会社に対しホテルミカドの建築工事代金の一部として昭和四五年三月六日頃建物完成引渡と同時に振出したものであるが、前記のように完成引渡したこの建築工事には建物が西側に約二〇センチメートル、約二度傾斜しており、数個所に雨漏りがある等の瑕疵が生じたが、これらの瑕疵は昭和四五年九月頃被告からの右三好建設株式会社に対する苦情申入れにより判明したこと、三好建設株式会社は本件各手形を昭和四六年一月から同年六月にかけて原告に対し右ホテルミカドの建築工事を含むその他の電気配線等の下請工事代金として原告に振出したことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実によるとホテルミカドの建築工事は予定された最後の工程までも完了して一応完成し被告に引渡したものであって、工事に瑕疵はあるが、被告主張の如く工事が未完成ないし工事に債務不履行があるといえないことは明らかであって、他にこれを認めるに足る証拠はない。

そして、請負人たる三好建設株式会社がすでに完成した工事に瑕疵があるときは、注文者である被告は、その請負人に対し瑕疵の修補を請求するか、またはその瑕疵につき損害賠償を請求し、民法六三四条二項、五三三条に基づき請負人の右修補ないし損害賠償と引換給付の同時履行の抗弁ないし相殺の抗弁をなすのは格別、この抗弁によらないで単に工事に瑕疵があることを理由に工事代金の支払を拒むことはできないから、右工事代金支払のため振出された本件手形金も右同時履行の抗弁等によらない限りその所持人たる原告に対しその支払を拒絶できないものと考える(大判大元一二、二〇民録一八輯一〇六六頁、大判大八、一〇、一民録二五輯一七二六頁参照)。

したがって、その余の判断をするまでもなく、被告の抗弁は理由がないものといわねばならない。

第三、結論

以上のとおりであるから、被告は原告に対し本件各約束手形金元本およびこれに対する訴状送達の翌日から支払ずみまでの商法所定年六分の割合による遅延損害金として本件各手形判決第一項記載の金員の支払義務があることが明らかであり、その支払を求める原告の本訴各請求は正当であってこれを認容すべきものであるから、民事訴訟法四五七条一項本文によりこれと符合する本件各手形判決を認可し、訴訟費用の負担につき同法四五八条一項、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川義春)

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